【レビュー】tc electronic Rush Booster 音がどクリーン!
👆 TC ELECTRONIC ( ティーシーエレクトロニック ) / Rush Booster
Rush Booster は低価格でもクセが無い!
tc electronicといえばラックエフェクターが目立ちますが、小型のストンプタイプも粒揃いです。近年は国内の市場流通価格が1万円未満という、低価格帯エフェクターの開発にも力を入れている様子が伺えます。中でもブースターは価格を抑えながら、特徴の異なるモデルを複数ラインナップです。
Spark Booster
まずSpark Boosterは2V2T形式のブースターで、最大+26dBまで増幅可能となっています。
Spark Mini Booster
Spark Miniは小型サイズながらも、ディスクリート回路を収めたスリムサイズブースターです。
Rush Booster
それらよりも更に低価格で販売されているのが、今回ご紹介する『 Rush Booster 』となっています。
シンプル故の『どクリーン』サウンド!
ワンボリュームのシンプルな構成ながらも、最大増幅レベルは+20dBと必要十分です。周波数特性のムラが無い端正な音の立ち上がりが最大の魅力で『どクリーン』と称するに相応しい増幅を実現します。メーカーからも『クリーンブースター』と位置付けられており、トーンを保ったまま音量を稼ぎたい場合は非常に有効です。
有名所のブースターは帯域にクセがあったり、倍音の強調で音に艶を出したりと、周波数特性が変化しやすくなります。一方本機は可能な限り音に『色付け』することなく、バランスの良いサウンドを奏でることが可能です。トゥルーバイパス採用につき、ドライサウンドへの干渉も最小限となっています。
本機の性能を詳しく調査してみたところ、他のブースターには無い優れた特徴も発見しました。周波数特性のグラフを掲載しつつ、 Rush Booster の魅力を紹介していきます。
Rush Booster の取説は7か国語対応
パッケージは光沢のある厚紙仕様で、シリカゲルや緩衝材も封入されていました。低価格帯の商品でも衝撃や保管に配慮されているのは、大手メーカーならではですね。中には本体の他に保証書と説明書が同梱されていましたが、説明書はどどーんと7か国語に対応しています。1ボリューム仕様で難しい説明が必要無いからか、スペースの限界まであらゆる外国語を詰め込んだ印象です。電池ボックスの位置が少し特殊なため、説明書には正しいスナップの装着方法まで記載されていました。
電源&入出力は側面ではなくノブの上方に配置
機体サイズは58×74×132(mm)で、BOSS等のエフェクターより一回り大きいサイズとなっています。代わりにインプットとアウトプット、そしてアダプター用の電源ソケットはまとめて機体上方に配置です。
エフェクトボードの横幅が狭い場合などでも、ある程度組み込みが容易な設計と言えるでしょう。
トゥルーバイパス仕様だが機械式では無い
機体トップにも明記されている通り、本機はトゥルーバイパス方式を採用です。スイッチの外観からすると、いかにも機械式の3PDTスイッチが搭載されているように見えます。しかしながら実際は内部がタクトスイッチとなっており、表のスイッチはバネが仕込まれている構造です。
表のスイッチを踏むとバネが圧縮されて、内部のタクトスイッチが切り替わる仕組みとなっています。そのため通常の機械式スイッチの切り替えと比較すると、体感的に僅かなラグが発生する点に注意です。慣れれば特に問題無いと思いますが、普通の機械式スイッチを想像していると面食らうかもしれません。
周波数特性で見る Rush Booster の均整美
ここからは実際にRush Boosterを使用して、周波数特性について見ていきましょう。まず本機は『±20dB』ではなく『+20dB』である点に注目です。純粋な増幅のみを目的としているため、マイナス方向に音を『減衰』させることが出来ません。VOLUMEを最小にした場合でもミュートされることはなく、ほぼ同じ音量か若干音量が上がった状態となります。
DIMARZIO DP184を使って周波数特性を測定
測定環境についてですが、使用ギターはDIMARZIO DP184をリアに搭載したSQUIER Bullet Stratocasterです。ブリッジは標準のものではなく、以前紹介したFENDER製10.5mm Big Blockに交換しています。DP184は交換用PUの中でも周波数特性にムラが無く(高音域7、中音域6、低音域6)、出力も適度な点が本機の測定に相応しいと判断しました。最初にエフェクトオフの状態の周波数特性を調べ、その値を基準としてエフェクトオン時と比較です。より詳しい測定環境については『1』の項目にまとめて記載しています。(※)
※使用ギター、使用ケーブル、DI、インターフェースの設定は全て固定
DIMARZIO ( ディマジオ ) / DP184 WHITE THE CHOPPER SQUIER ( スクワイヤ ) / Bullet Stratocaster Tropical Turquoise FENDER ( フェンダー ) / Standard Strat Big Block Chrome Tremolo Bridge Assembly
1.基本となるDIMARZIO DP184の周波数特性
エフェクトオフの状態では、おおむねDP184の性能指数に近い波形が計測されました。400Hz付近を頂点として、高音域にかけて均等かつなだらかに減衰していきます。ピークらしいピークを持たず、オールラウンドなトーン傾向が一目瞭然です。
測定環境
ギター:SQUIER Bullet Stratocaster Tropical Turquoise リアピックアップ:DIMARZIO DP184 WHITE THE CHOPPER シールド:ARIA / JG-10X (10ft/3m, S/S)×2 DI-インターフェース間マイクケーブル:Amazon / CLMIC1-M-F-10FT-5P×1 DI:CLASSIC PRO / CDI-2P (INST) インターフェース:YAMAHA / AG03 (CH1,LEVEL:標準ライン,GAIN:3.5,全エフェクト無し,INPUT MIX) 周波数目安(左から順に) 赤線:100Hz,200Hz 橙線:400Hz,800Hz 黄線:2000Hz,3000Hz,6000Hz
2.Rush Booster ON(VOLUME最小)
続いてこちらの波形は、Rush Boosterを最小レベルでONに設定しています。出力はエフェクトOFF時より+3dB高くなり、800~6,000Hzの周波数特性がやや向上です。とは言え帯域が持ち上がったというよりは、本来発揮されるべき音域に戻ったという印象でした。
YAMAHA AG03はギター用途としてはバッファーが少し弱く、若干音瘦せする傾向があります。インターフェースで痩せてしまった音が、Rush Boosterでノーマライズされたといったところでしょうか。この設定では各インターフェースやマルチエフェクターなど、PCへ接続する際のバッファーとして優秀です。
3.Rush Booster ON(VOLUME9時)
ギターを強く弾いた際にギリギリ歪む境界線付近として、VOLUMEを少しだけ上げてみました。出力が最小時よりも+8dB上がり、OFF時からの比較では+11dB程増幅されています。100Hz~1,000Hzまでは帯域に目立った変化がなく、それ以上では均等に+6dB前後出力が上昇です。
2番の帯域と比較すると、音量以外の体感的な変化がほとんど感じられないレベルになっております。ただし6,000Hz以上も適度に増幅されているため、若干音の輪郭の鋭さを感じるハズです。
4.Rush Booster ON(VOLUME最大)
一気にVOLUMEレベルを最大まで上げて、ギターの音が完全に歪む状態に設定しました。出力は+18dB~+21dBほど増幅されており、機体設計通りの増幅性能だと言えるでしょう。それでも1,000Hz付近まではVOLUME最小時と大差無く、2,000~6,000Hzにかけて隙間なく45度の曲線状となっております。
1番と比べてみると最大出力レベルの差異こそあれど、帯域的なムラの無い点が音域のクセの少なさを主張です。VOLUMEを上げても帯域の上昇がゆるやかなため、音質を変えずに音量だけが増幅したかのように聞こえます。
際立つ本体ボリュームへの追従性の高さ
最後に Rush Booster を最大設定のまま、ギターの本体ボリュームを強く弾いても歪まないレベルまで落としてみましょう。
すると面白い事に、VOLUME最大時の周波数特性を保ったまま出力レベルだけが減衰するのです。つまり本機はギター本体ボリュームへの追従性が際立って優秀で、音量を変化させても周波数特性が全く変化しません。ボリューム奏法やボリュームペダルを多用する演奏スタイルとは、恐ろしい程に相性が良いと断言出来ます。
クリスタルなクリーントーンから増幅管を1本追加したかのような歪みまで、手元のボリューム操作だけで再現可能です。本機のポテンシャルに気が付いていない方は、ぜひともこの『Rush MAX /ギターMIN』設定をお試しください。次回は本機の構成パーツに注目し、簡単に出来るモディファイ方針の提案をしてみたいと思います。